ゾロは、目の前に広がる都会の夜景をぼんやりと眺めていた。
都会の喧騒の中で、ふとナミのことを思い出し、彼の胸に鋭い痛みが走った。
別れて数週間が経っても、まだ心は彼女のことを忘れられないでいた。だが、その痛みは今回が初めてではなかった。
ナミと出会う前、ゾロは長い間恋愛から遠ざかっていた。
その理由には、過去に付き合いそうだった一人の女性が大きく影響していた。
マイとの関係
ゾロが大学を卒業した頃、彼の心を最も揺さぶった女性がいた。
同じ大学の同級生だったマイだ。
マイとは関西の大学で出会い、就職を機に二人とも東京に移り住んだ。
当時、お互い東京に知り合いがほとんどおらず、自然と二人の距離は近づいた。
最初は友達として、孤独を埋め合うように過ごしていたが、徐々にそれは友人以上の関係へと変わっていった。
しかし、マイには心に深い傷があった。
数ヶ月前、マイは2年間付き合った彼氏に浮気され、その出来事が彼女を壊してしまった。
彼女はもう二度と恋愛なんてしたくないと言って、ゾロに依存するようになっていた。
ゾロは、そんな彼女を癒してあげたいと思い、友人として支え続けた。
二人の関係は、どこか中途半端なものだった。
マイはまだ恋愛に対して警戒心を持っており、ゾロに対しても完全に心を開いていなかった。
それでも、彼は彼女がいつか心の傷を癒し、自分に気持ちを向けてくれる日を待ち続けていた。
ゾロはその当時、恋愛に対しては不器用だったが、マイのためなら時間がかかってもいいとさえ思っていた。
しかし、時が経つにつれて、マイの心は少しずつ回復していった。
以前のように笑顔を見せることが増え、仕事でも順調に成果を上げ始めた。
そんな彼女が、先輩から紹介された男性や、SNSで知り合った男性と会うようになったことを知った時、ゾロの胸には深い違和感が生まれた。
「俺は何だったんだろう?」
そう思わざるを得なかった。
ゾロが支え続けたことで、マイは次第に元気を取り戻したが、彼女は次のステップに進んでしまった。ゾロに頼る必要がなくなると、彼はその場に取り残されてしまったのだ。
彼がマイにとってただの「都合のいい存在」でしかなかったことに気づいた時、ゾロは心が折れた。
結局、ゾロはマイの元を離れ、彼女との関係に終止符を打つことにした。
その出来事は、ゾロにとって大きな傷となり、彼はもう誰も信用できないと思うようになった。
マイとの曖昧な関係に終わりを告げた後も、ゾロは恋愛に対して慎重になり、心を閉ざす日々が続いた。
ナミとの出会い
それから5年が経った。
ゾロは仕事に追われ、周囲が恋愛や結婚の話をする中でも、どこか自分には縁遠いものだと感じていた。
マッチングアプリを始めたのも、半ば友人に勧められてのことだった。
「期待しすぎず、軽く試してみればいい」と言われ、渋々始めたものの、ゾロの心はまだ過去の傷を引きずっていた。
そんな中で出会ったのがナミだった。
彼女は23歳のWebエンジニアで、いつも前向きで明るく、そして何よりも自分の目標に対して非常に真摯だった。
ナミの目標は、どこにいても働けるエンジニアとしてのスキルを磨き、世界を舞台に活躍すること。
ゾロは彼女の夢に魅了されると同時に、その真剣さに共感を覚えた。
最初のデートは、ただの夜ご飯だった。
お互いが好きなものや、共通の趣味である人間観察について話すうちに、ゾロは久しぶりに「この人とはもっと話したい」と感じた。
何度か会ううちに、ナミがゾロにとって特別な存在になっていった。
長らく感じることのなかった恋愛感情が、彼の心の中で静かに芽生え始めたのだ。
3回目のデートの後、ゾロはついにナミに告白を決意した。
彼は恋愛から遠ざかっていた時間が長すぎて、自分の気持ちが恋愛感情なのかどうかすらわからなかった。
しかし、ナミとの時間がこれ以上無くなることを考えると、彼の心はその思いを抑えることができなかった。
「好きだ」と告白した時、ナミは彼の手を取り、静かに「私も」と微笑んだ。
その瞬間、ゾロの心は解放されたかのように、久しぶりの幸福感に包まれた。
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夢と愛の選択
しかし、ナミにはゾロが知らない葛藤があった。
ナミの会社が海外拠点をフィリピンに移す計画を発表し、彼女はさらに大きなチャンスを手にした。ワーキングホリデーで語学を学び、フィリピンで新たなキャリアに挑戦するという夢が、現実に近づいていたのだ。
ゾロは最初、彼女の夢を全力で応援しようと思っていた。彼女の夢に向かう姿は、ゾロにとって一番輝いて見えるものだったからだ。
しかし、時間が経つにつれ、ナミの心にはある種の不安が生まれてきた。彼女は、自分がゾロと一緒にいることで、夢に対して全力を注ぐことができないのではないかと感じ始めた。
そして、ある日ナミはゾロにこう告げた。
「ゾロ、私、やっぱり別れたいの。ゾロのことは大好きだけど…このままだと、私、夢に集中できないと思うの」
ゾロはその言葉を聞いて、心が引き裂かれるような思いだった。
彼はナミを失いたくなかった。彼女の夢を応援しながらも、二人で未来を歩んでいけると思っていたからだ。
しかし、ナミが真剣に夢を追い続けるためには、彼を手放さなければならないと決断した以上、ゾロにはその選択を尊重するしかなかった。
「ナミなら、絶対にできるよ。なんせ、俺が好きになった女だから」
ゾロは最後までナミを応援する姿勢を貫いた。
それが、彼にとって彼女に対する本当の愛情だったからだ。
別れのその後
二人は別れ、別々の道を歩み始めた。
ナミはワーキングホリデーの準備を進め、ゾロもまた、自分の人生に再び向き合う時間を持った。
彼女との別れは、ゾロにとって大きな傷となったが、それでも彼は後悔していなかった。
ナミとの恋愛は、ゾロにとって愛とは何かを再確認させるものであり、彼女の夢を応援することが本当の愛だと気づかせてくれた。
そして彼は、ナミに負けないよう、自分自身を高めるために新たな目標に向かって進み始めた。
夢と愛の狭間で揺れ動きながらも、互いに尊重し合い、別れを選んだ二人の物語。
著者
ハンドルネーム:かなと
出身:三重県
学歴:龍谷大学卒業
職歴:財務コンサルタント
趣味:ジム、旅行、ドラマ鑑賞
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